雑記

好きな映画は『お嬢さん』『青い春』『ピンポン』『天気の子』です

9/21

 通院をした。

 起きた時点から、とても寒かった。外出するため、先日買った暖かいカーディガンと鞄をおろした。カーディガンは首元がV字になっているので、ボタンを全部閉めてもざっくりとしたセーターのようでかわいらしい。鞄も、ころんとした形の割にペットボトルも余裕で入る。荷物を出し入れしながら、鞄を買ってよかった、と満足感に浸った。

 身支度を整えて病院に着いたところで、携帯を忘れたことに気がついた。取りに戻ってしまうと、予約の時間に間に合わない。携帯は諦めることにした。

 待合室で名前が呼ばれるのを、木村衣有子『もの食う本』を読みながら待った。食にまつわる本が、数ページで読書感想文的に紹介されている。元々は最近刊行されたらしい『家庭料理の窓』という本が読みたかったのだが、見つけられない故に同じ著者の本を手に取ってみたものだ。

 

平凡社 木村衣有子『家庭料理の窓』

https://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b608406.html

筑摩書房 木村衣有子『もの食う本』

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480428981/

 

 江國香織の『やわらかなレタス』から始まり、エッセイや小説のしみじみとした食の描写を拾っていく本かと思いきや、いきなり服部文祥『狩猟サバイバル』などの、生々しいけれど避けても通れない、肉をつくる工程に目を向けたかと思うと、文化的側面を拾い、鮨やコーヒーや酒など、閉ざされた男性の世界のようなものに疑問を呈したりもする。簡潔でキレのいい文章で書かれる様々な読書感想文が、とても読みやすい。その上、しみじみとした読了感に浸れるいい本だった。

 1時間ちょっとの待ち時間の間、携帯がないことにより集中して読むことができた。たまには携帯を禁じるのもいいかもしれない。言葉としては矛盾しているけど……。

 

 9月ということもあり、秋のバラを見かけた。初夏の頃より、秋のバラの方をなんとはなしに好いてしまう。気候とバラを見るときの気持ちが一致しているからかもしれない。シェエラザードやダフネやベラドンナクロード・モネ、夜来香(イエライシャン)など、様々な名前が並ぶなか、いっとう綺麗だったのが赤、黄、白の絞りのバラだった。帰宅して調べたらマルク・シャガールという種類らしい。全ておいしそうな色で構成されたマーブルになっているところがいい。

 

 『もの食う本』で引用されている、山口瞳の『行きつけの店』に、このような一説がある。

「寿司屋とソバ屋と、酒場(私の場合は赤提灯だが)と喫茶店、これを一軒ずつ知っていれば、あとはもういらない。駅のそばに、気楽に無駄話のできる喫茶店があるというのは、とても嬉しいことだ。いや、もし、そういうものがなかったとするならば、その町に住んでいるとは言えない。私はそんなふうに考えている」

 私は駅とはほぼ無縁な生活を送っているため、駅のそばにお店があると嬉しい、という実感を得たことがない。それでも、確かにこの町に住んでいるなら信頼できるお店の一つや二つはあってほしい。そういう心持ちになり、通院のたび見かける、知らない喫茶店に入ってみることにした。

 訪れた喫茶店は、落ち着いた雰囲気だった。照明は少し落とされているが、暗いというほどでもない。お昼時だったが、平日からか客は私1人だった。カレーや、1日中食べられるモーニングと迷ったが、ナポリタンを注文することにした。喫茶店ナポリタン、食べてみたかったのだ。注文すると、具材を炒めるような音や、野菜を切るような音がした。

 数十分後、料理が運ばれてきた。サラダが脇に盛られた麺に、スープの小皿がついていた。実際に食べてみると、ケチャップと油が炒められて、甘くコクが出たような味がする。すこし太く柔らかめの麺が使われてるのも良い。私が想像していた「喫茶店ナポリタン」をそのまま具現化したような形!すごくおいしい!と騒ぎまわる程ではないけれど、これでいいのだ、という味がする。サラダも、薄く切られたきゅうりやレタスの上に胡麻ドレッシングがかけられたもので、家にある包丁ではこんなに細くパリパリに仕上げることはできないな、と感動した。スープは具材がわかめのみで、パセリが散らしてあった。黄金色で、出汁が効いている。コンソメか中華スープかと言われると判別がつかないけれど、塩味が強すぎず、付け合わせにちょうどいい味をしていた。

 また、粉チーズとタバスコが添えられていたので、途中から味を変更して食べ進めてみた。最後の一口は胡麻ドレッシングとナポリタンが混ざってしまったのだけれど、一瞬冷やし中華を食べている気持ちになった。おそらく、麺と胡麻の組み合わせがそういう気持ちにさせたのだとは思うが、不思議だ。終始嬉しい気持ちで食べすすめた。デザートもいくつかあり、高さのあるパンケーキや、ベトナムコーヒーゼリーなどの写真が並んでいた。機会があれば食べてみたい。それこそ携帯を忘れてしまったので、写真をお見せできないのが残念だ。

 

 外に出ると、金色の稲穂と青空のコントラストが綺麗だった。稲穂は金色、もしくは黄金色という表現がぴったり来るので使っているが、なんとなく緑がかっているので、金色ではないような気もする。先日、真っ青なニットワンピースを着ていたので「このまま田んぼの中に入れば、『その者青き衣を纏いて金色の野に降り立つべし』だな……」と考えていたのを思い出した。

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 映画『羊の木』を観た。時間に余裕があれば『ダンスウィズミー』『ハチミツとクローバー』『坂道のアポロン』あたりも観たかったのだが、弟と作業通話をしていたらすっかり日が暮れていた。おかげで家事や絵が捗ったので、こういうお休みの過ごし方もいいな、と思った。

 『羊の木』自体は、私の記憶が正しければ、映画館での上映時とサブスク導入時、そして今回で計3回観ている。3回観るということは好きな映画なんだと思うし、人にも勧めてしまうが、わからない部分もたくさんある映画だ。全部が全部説明されるわけではない。上映時間も2時間と少しある。それでも、空気感やラストシーンの疾走感が大好きで観てしまうのだ。作中で放たれる「多分、月末くんが勝つよ」という台詞を、もう忘れることはないのだろうな、と思う。クライマックスを迎え、後日談のように、見てはいけないはずの守り神が白昼堂々人々の目に晒される。このシーンは不思議な清々しさがある。